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夏の終わり、恋心など 1

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小学校6年生の夏休み、幼なじの加奈子と真由美の3人で、近所の夏祭りに行った。
住宅街横の原っぱは、中央が盆踊りのスペースになっていて、周辺はぐるっと、出店に囲まれている。子供会で出している店に、親がかかりっきりになっているので、私たちは勝手にぶらぶらしていた。

かき氷を食べていたら、加奈子が私のTシャツの裾をひっぱった。「何?」と言うと耳元で「あの人。私がかっこいいって言いよった人。」とささやく。指された方を見ると、一人の男の子が立っていた。「誰?」「お姉ちゃんと同じクラスの佐々木君。この前、家に遊びに来とったと。バリバリかっこいいとって。」「ふーん、加奈子ちゃんのお姉ちゃんと同じってことは、中学校3年生?」「うん。」そんなことを話しながら、もう一度、彼の方を見た。
あれ? こっちに近づいてくるっちゃけど。「こっちに来ようよ。」と加奈子に言うと、「加奈子ちゃんのこと、気がついたっちゃない?」と真由美。ふ〜ん、なら、私と真由美は邪魔やろう? と思った私は、かき氷も食べてしまったことだし、焼き鳥に行こうとした。ところが、「久しぶり、元気やった?」とその佐々木君は、私の前に立ちふさがったのだ。

加奈子も真由美もびっくり。それ以上に私もびっくり。
私は一瞬、不審者を見るような目をしたと思うが、彼は「鈴木さんちの優子ちゃん、やろ?」と、私に話しかける。はい、間違いありません。でも私はこの人知らんよ。一生懸命、記憶の糸をたぐり寄せるが、思い出せん。そんな私に、「ずっと前やけど、親父のソフトボールの試合で会ったことあろう?」と、少し残念そうな彼。
確かに、私の父は趣味でソフトボールチームに入っている。練習や試合は週末なんで、ときどきついて行った。同じような子どもが何人かおった。でも、今は行っとらんし、幼稚園か小学校入学したての頃で、たまにしか会わない男子の顔なんて、覚えとらん。
加奈子は「え〜すごか〜。小さい頃会っただけなのに、優子のことば覚えとうげな。」と佐々木君を褒める。
好きなのはわかる、けど私をダシにせんで、と思っていたら、「だって、全然かわっとらんもん。」と彼。私以外は、全員笑った。

その後、何故か4人で、ぶらぶら。私は内心面白くなかったが、加奈子は目がハートになっていて、すんごくかわいかったので、彼女に免じて、黙っていた。
お祭りも佳境に入り、盆踊りの音楽が流れ出した。私は親によばれたので、加奈子と真由美は先に踊りの輪に入っていった。「この後、打ち上げがあるけん、先に帰っとけ。」と言う両親から、鍵をあずかり戻ると、佐々木君だけが立っていた。
彼の横に並び、しばらく、踊っている人たちを見ていた。楽しそうで、キレイだ。
不意に佐々木君が、私の手をとった。見上げると、「ね、どっか行かん?」と言って、私をひっぱる。あわてて加奈子と真由を呼ぼうと振り返ったが、人にまぎれて、見えない。
人ごみをぬけ、住宅街をぬけ、静かな川が流れる橋のところまで来た。
彼は、無言で怒りのオーラを発している私に、「二人で話がしたかったけん、ごめん。」となだめるように言う。そして、ニコニコしながら、橋の欄干に座り足をぶらぶらさせていた私に、自販機で買ったジュースを手渡した。

by privatecafe | 2008-09-03 12:34 | OTHERS...