秘密のツリー 1

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大学生の今時期、私はデパートでお歳暮のアルバイトをしていた。
最初は接客の方で雇われていたのだけど、途中から、データ処理の裏方にまわされた。
(自分の名誉の為に言いますが、接客態度がまずくて、裏にまわされたのではありませんよ!!)

毎日小さな部屋で、責任者のSさんと二人のパートさん、そして私は、黙々とデータのチェックをした・・・と書くと暗い感じがするけど、意外にそうでもない。出入りする社員さんたちは皆優しいし、表の接客をしている子たちとも仲良くなって、結構楽しくやっていた。12月も中旬になると、本当に忙しくなって、家庭のあるパートさんたちのかわりに、学生の私はほぼ毎日シフトに入った。Sさんが席を外すことも多くなり、一人で作業する時間がふえたのも、その頃だ。

その時期、Tさんという男性社員が、私たちが作業している部屋によく来るようになった。
このTさん、すんごい美声の持ち主だった。細いフレームの眼鏡が理知的な感じで、パッと見は冷たい感じがするのだけど、声は低くソフトで、甘い。
で、その美声は、電話によるクレーム処理係、という、これ以上無いような適所でいかされていた。
私たちが作業している部屋が、静かなのに目を付けた彼は、ちょくちょく、電話を使いにきていたのだ。

ある日、彼が受話器を置いた後、「ね、従業員で入口でいつも待ってるヤツ、彼氏?」と、私にきいてきた。普段は挨拶をする程度で、特に話した事はなかったけど、その時、部屋には二人だけだった気安さもあって、話しかけてきたのだろう。
私は、「ええ、まあ。」と書類をめくりながら、答えた。Tさんは「ふーん。」と伸びをしながら「彼、歳下だよね?」と続けた。「はい。」と答える私に彼は近づいてきて、隣に座った。「俺のね、奥さんも、年上なんだよ。」「へ〜。」「このデパートで、結婚前は働いてたんだよ。でね、彼の、君を待ってる姿見たとき、なんか、昔の自分を思い出したね。」「ははは・・・、のろけですか?」私の突っ込みにちょっと照れた彼はすぐに立ち上がって、ポケットをごそごそと探り出した。そして「これ。」と言って、チョコレートをくれ「がんばって。」といいながら部屋を出て行った。

チョコレートを持ったまま、私はさっきのTさんの電話のことを思った。
「申し訳ありません。」と言いながら、見えないはずの相手に頭を下げる。誰かのかわりに頭を下げる。大きい組織で働くということは、そういうことでもあるのだ。
それ以来、彼とはよく話すようになった。休憩所でも、お茶をおごってくれたり、何かと気にかけてくれた。

クリスマスイブの夜、当然ながら私はバイトだった。恋人もサービス業のバイトで、会えないことは分かっていたので、シフトに入れてもらった。
その日も忙しく、パートさんたちに「予約しておいたケーキをデパ地下に受け取りに行って、そのまま帰ります。お先に〜。」と言われた時には、窓の外は暗くなっていた。
Sさんに「帰って良いよ。」と言われて、一人ごそごそと用意していたら、Tさんが「お、今帰り?」と部屋に入ってきた。マフラーを巻きながら「はい。」と答えると、彼は私が作業していた机の上の上に目をやって「これ、すごいね。」と笑った。
机の上には、コーヒーやお菓子が大量にのっている。社員さんたちの差し入れだ。「お茶はのんだんですけど、コーヒー、飲めないんですよ。あ、よかったら持って帰ってください。もらいものですけど。」私はそばにあった袋に缶やお菓子をつめて、彼に渡した。彼は大の甘党なのだ。
彼は「ありがとう。」と受け取ると、「ね、この後少し、時間ある?」と続けた。「ええ、まあ。」と答える私に、彼はニコっと笑って言った。「じゃあさ、良いもの見せてあげる。お礼に。」
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by privatecafe | 2007-12-18 12:22 | OTHERS...